骨折治療の基礎概念・骨折治療の理論と知識

骨折治療の基礎概念・骨折治療の理論と知識

骨折治療の基礎概念

ハートワン動物病院では、骨折治療の基礎として「AO法」を採用しています。
AO法は、1958年にスイスで設立された「Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen」
(骨接合研究会)の略称で、骨折治療に関する理論と技術を体系化したものです。

AO法の基本原則は以下の4つです。

  1. 解剖学的整復:骨折部位を元の形状に正確に戻すこと。
  2. 安定した固定:骨折部位を適切な方法で固定し、早期の機能回復を促すこと。
  3. 軟部組織の保護:手術中に周囲の筋肉や血管などの軟部組織へのダメージを最小限に抑えること。
  4. 早期の機能回復:固定後、可能な限り早期に患部の運動を開始し、正常な機能を取り戻すこと。

これらの原則に基づき、当院では以下の取り組みを行っています。
丁寧な治療:AO法の基本原理を深く理解し、患者様一人ひとりに最適な治療を提供しています。
チーム医療:スタッフ間で定期的にカンファレンスを実施し、情報共有と連携を強化しています。
これにより、患者様に質の高い骨折治療を提供し、早期の回復を目指しています。

骨折治療の理論と知識

骨折の治癒過程は、瘢痕形成を経ずに治癒が完了する点で独特です。この過程を適切に判断し管理するためには、生物学的な治癒メカニズムに関する深い理解と、骨折の種類や状態に応じた治療法を選択する必要があります。

骨折治癒の仕組み

骨折の治癒は、生物学的プロセスによって段階的に進行します。この過程は以下の3つ(①②③)のフェーズに分けられ、それぞれが治療法の選択や術後管理に大きく影響を及ぼします。

  1. 最初の炎症反応
    骨折が発生すると、すぐに損傷部位に血腫が形成されます。これが治癒過程の出発点となり、マクロファージや血小板が成長因子を分泌します。これらの因子が血管新生や細胞の増殖を促進し、治癒環境を整備します。この段階では動物の疼痛や腫脹が顕著であり、安静を徹底することが重要です。
  2. 修復の段階
    炎症が収まり始めると、血腫が肉芽組織に変化し、軟骨形成を経て仮骨が形成されます。この仮骨は次第に石灰化し、硬い仮骨へと進展します。この段階では、骨折部の安定性を確保することが重要であり、適切な固定が治癒の成功に寄与します。修復段階における管理には、固定具の調整や治癒進行のモニタリングが含まれます。
  3. 最終的な骨の再構築
    最終段階では、仮骨が成熟した皮質骨に置き換わります。このプロセスは数ヶ月から数年に及ぶことがあり、骨の形状や機能が元の状態に戻るための重要なフェーズです。この段階では動物に適度な運動を提供し、骨の構造変化(リモデリング)を促進する必要があります。

治療法の詳細と治癒の促進方法

  • 自然治癒
    自然治癒は、動物の自己治癒能力を最大限に活用する治療アプローチです。この方法は、軽度の骨折や動物が安静を維持できる状況に適しています。治療には、ロバートジョーンズ包帯やスプリントなどの外固定を使用し、骨片を安定化させながら過剰な動きを防ぎます。
  • 生物学的骨接合の活用
    自然治癒を支援するためには、生物学的骨接合(Biological Osteosynthesis)の考え方が有用です。この方法では、軟部組織や骨折血腫の完全性を保ちつつ、最小限の侵襲で治癒を促進します。創外固定器や髄内ピンを用いることで、骨片を適切に固定しながら周囲組織へのダメージを軽減します。
  • 自家骨移植の適用
    複雑な骨折や治癒が遅れる症例では、新鮮な自家海綿骨移植が推奨されます。この移植骨は、腸骨稜や近位上腕骨から採取され、治癒部位における骨形成を促進する足場として機能します。また、移植骨には局所的な成長因子が含まれ、骨癒合のスピードを加速させる役割を果たします。
  • 外固定による治療
    外固定は、骨折部を外部から支持し、仮骨形成を促進する治療法です。この方法は若齢動物や軽度の骨折に特に適しており、動物が治療期間中に安定した環境を維持できる場合に効果を発揮します。感染リスクを最小化するため、外固定具の清潔な管理が求められます。

症例に基づく治療法の適用

治療法の選択は、骨折の種類や動物の年齢、生活環境などを考慮して慎重に行う必要があります。

症例別の適応例

  • 若齢動物の単純骨折には外固定が適用されることが多く、軽度の安定性を提供します。
  • 高齢動物や複雑な骨折では、ロッキングプレートや髄内ピンなどの強固な固定法も効果的です。
  • 粉砕骨折や偽関節の治療では、生物学的骨接合と自家骨移植の組み合わせが推奨されます。