矯正骨切り術(Corrective Osteotomy)は、動物の整形外科手術の一環として、骨の形状や軸の異常を修正し、運動機能や生活の質を向上させるために実施される高度な外科的処置です。この手術は、関節の整合性を改善し、変形による痛みや不具合を軽減することを目的としています。
以下では、矯正骨切り術の概要と手術の詳細についてご説明します。
1. 術前に考慮すべきこと
矯正骨切り術は計画的に行われる選択的手術であり、以下のようなケースに適応されます。
- 関節の整合性の改善: 骨の変形や軸のずれが関節に負担を与える場合。
- 骨端板外傷や骨折の変形癒合: 骨の成長や形状に異常が生じた場合。
- 骨長の調整: 骨の長さが左右で異なる場合。
- 捻転変形の矯正: 骨がねじれている場合。
術前準備
- 身体検査
・節の緩みや異常音(捻髪音)を確認し、角変形の程度を評価します。
・隣接する関節の動きを調べ、回転変形の有無を判断します。 - 画像診断
・X線撮影を行い、患部と健常な対側肢の形状を比較します。
・必要に応じてCTやMRIを使用し、骨の構造を立体的に把握します。 - 軟部組織の評価
・一段階での矯正が可能か、または継続的な伸長が必要かを判断します。 - 術前計画
・骨切り位置や角度を計算し、適切な固定器具(プレート、スクリュー、創外固定装置など)を選定します。
2. 外科解剖とアプローチ法
外科手術では、正確な解剖学的知識が必要です。また、手術部位に適したアプローチ方法を選択し、軟部組織を慎重に保護することが重要です。
- 骨幹部の骨切り術
: 自家海綿骨移植が必要な場合、適切なドナー部位の準備を行います。 - 軟部組織の保護
: 神経や血管を損傷しないよう細心の注意を払いながら手術を進めます。
3. 三点骨盤骨切り術
3.1 適応
三点骨盤骨切り術は、股関節形成不全(Hip Dysplasia)の犬において、大腿骨頭の被覆率を向上させ、関節の安定性を高める目的で行われます。
3.2 術前計画
- 骨盤のX線撮影を基に切り込み位置を決定します。
- 関節の整合性を最適化するために、骨盤をどのように再配置するか計画します。
3.3 外科手術
- 骨盤の三か所を切開し、計画された角度で再配置します。
- プレートやスクリューを用いて固定を行い、安定性を確保します。
3.4 術後管理
- 術後は安静を保ちながら、段階的に運動を再開します。
- 必要に応じて関節炎予防のためのリハビリテーションを実施します。
4. 動的尺骨骨切り術または骨切除術
4.1 適応
肘関節の不整合(Ulnar incongruity)や内側鈎状突起分離(FCP)が原因で、肘突起に異常な圧力がかかっている場合に実施されます。
4.2 術前計画
- X線やCTを用いて、肘関節の状態を詳細に評価します。
- 尺骨の切除位置や矯正範囲を明確にします。
4.3 手術手技
4.3.1 動的近位尺骨骨切り術
- 尺骨近位部を切開し、関節の負担を調整します。
4.3.2 動的近位尺骨骨切除術
- 尺骨の一部を切除し、肘突起の圧迫を緩和します。
4.4 術後管理
- 適切なサポートバンドの装着や体重管理を行います。
- 定期的に関節の動きをチェックし、リハビリを進めます。
5. 脛骨高平部水平骨切り術(TPLO)
5.1 適応
前十字靭帯断裂の犬で、脛骨高平部の角度を調整して関節の安定性を高める目的で行われます。
5.2 術前計画
- X線を用いて脛骨高平部の角度を測定し、矯正範囲を計算します。
- 使用するプレートやスクリューを選定します。
5.3 外科手術
- 脛骨近位部を切開し、水平化して再配置した後に固定を行います。
5.4 術後管理
- 術後6週間は厳格な安静が求められます。
- リハビリを通じて筋力を回復させ、関節の可動域を改善します。
6. 未成熟動物における尺骨または橈骨の骨切除術
6.1 適応
成長期の骨端板早期閉鎖によって、骨の成長が阻害されている場合に行います。
6.2 術前計画
- 健常な対側肢と比較しながら、骨切除の範囲を決定します。
6.3 外科手順
6.3.1 尺骨骨切除術と遊離自家脂肪移植
- 尺骨の一部を切除し、成長を促進します。
6.3.2 橈骨切除術と遊離自家脂肪移植
- 橈骨の矯正を行い、脂肪移植で成長促進を補助します。
6.4 術後管理
- 成長状況を定期的にモニタリングし、適切なケアを実施します。
7. 予後と結果
矯正骨切り術の成功には、綿密な術前計画と正確な手技が必要です。多くの場合、手術後は動物の運動能力や生活の質が大幅に改善されますが、進行性関節炎のリスクが伴う場合もあるため、定期的なフォローアップが推奨されます。